蟹3

感想と怪文書

ねこはいます。

猫がきた。

ある日「週末に動物愛護センターで子猫譲渡会があるからちょっと行ってみよう」という話になり、譲渡希望者がたくさん来ていたので抽選に漏れるだろうと気軽に考えていたら、なんやかんやその日のうちに1匹をお迎えすることになった。気持ちの準備が全然できていない。推定3か月、女の子、キジトラ、しっぽがほぼない。
譲渡の方法は動物園のようにケージに入れて並べられた子猫たちを人間がぞろぞろと眺め、引き取りたい子の番号を書いて提出し被ったら抽選、という形だった。正直どの子でもよかったが、じゃんけんで勝った母が選んだ8番の子は希望が我が家だけだったようだ。猫なんてもれなくみんな可愛いと思っていたが(実際可愛いが)、明らかに人気の偏りがあったのが興味深かった。ダントツ一番人気の子は、愛嬌なのか器量なのかうまく言えないが確かに人気だろうなと納得する何かがあった。猫にも容姿の美醜があるらしい。まあうちの子も可愛いのだが。

鼻風邪をひいていて、猫素人(?)の俺にもわかるくらいビビっていた。そりゃあいきなり知らない連中に囲まれて知らないところへ連れてこられたら俺だってビビる。ケージに入れればケージの角、ケージから出せば部屋の隅っこに限界まで身を寄せ大きな眼だけがこちらをじっと窺っていて、初日は鳴き声すらあげないしごはんも食べない。近所の野良とYouTubeでしか猫を知らない俺のイメージを覆す、静かでおとなしい姿だった。ペットは飼い主に似ると言うが、初めて会ったその日から似てほしくない所が似ているのはどうかと思った。翌日病院にいって鼻水の薬と低血糖予防のシロップをもらった。何日もご飯を食べないようなら栄養剤注射や入院の可能性もあると言われ心配だったが、数日のうちに食事もトイレも問題なく過ごせるようになってよかった。(何も言わなくてもトイレでトイレするのすごい)

お互い戸惑っている者同士仲良くなるには時間がかかるだろうと思っていた。愛護センターにいたので元は野良猫なのだと思うが、しっぽがないのは何か酷い目にあったからなのかもしれない。だから臆病な性格なんだろうなと。半月ほどたった今、やつはカーテンに戦いを挑み何事かをニャアニャア訴え俺のケツに頭を擦り付けている。入ったことのない部屋にはまだ警戒心が見えるが、想像をはるかに上回る馴染み具合である。俺はいまだに小さな命が腕の中にあることに恐怖しているというのに。ペットを飼う前から死ぬときのことを考えてつらいという話をよく聞くが、そこまで想像は及ばないにしろ似たような感覚なのだと思う。抱きあげたときの熱さ(猫の体温は高い)、撫でたときに手に当たる背骨の硬さ、そういうものにいちいち生命を感じてしまい、えっマジこれ生きてるん?やばない?小さすぎん?死なん?触って大丈夫?みたいになる。当の本人(猫)はごろごろ言いながら人のシャツのボタンをかじって弄んでいる。圧倒的な敗北を感じる。