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感想と怪文書

呪術廻戦212話(ネタバレ)

本日発売の週刊少年ジャンプ2023年10号に掲載の『呪術廻戦』第212話について、非常にショッキングかつ物語上重大な展開が続いたわけですが、その重大な展開に関わるある点についてどうしても納得できないので、何が納得いかないのか整理します。ネタバレを含みますので嫌な人は読まないでください。呪術廻戦に否定的な文章が嫌な人も読まないでください。


前提を確認します。虎杖悠仁の中には宿儺という呪霊が寄生していて、普段は虎杖が肉体の主導権を持っています。しかし、過去に虎杖と宿儺はある契約を交わしており、主導権に関して3つの条件がありました。

①宿儺が「契闊」と唱えると1分間肉体の主導権が宿儺に移る
②その間宿儺は誰も傷つけず殺さない
③契約成立後、虎杖は契約したことを忘れる

というものです。連載序盤の話なのでまあ長いこと温存しましたね。
そして今週満を持して「契闊」が行使されたんですが、その1分間に宿儺は、自身の指を引きちぎって呪物化し、伏黒恵に無理やり飲ませることで伏黒の肉体に乗り移る、という荒業を成し遂げました。
来栖華を気絶させるのと無理やり呪物を飲ませるのは傷害行為じゃねえのか、といったツッコミもあるんですが今回それは無視します。それも納得はしてないが。

宿儺によれば、条件②の「誰も傷つけない」の中に「虎杖自身」が含まれていないと虎杖が考えていたため、自身(虎杖ボディ)の指を引きちぎっても契約違反の罰が発生しなかった、虎杖のバーカバーカ、ということらしいです。一応、宿儺も「賭け」と言っており確証があったわけではなさそうですが、目論見通りうまくいった様子。
しかし、少なくとも以下の点が成立していないとこのような流れにはなりません。

(1)契約の縛りは言葉通りではなく当事者(の片方)の理解や解釈が適用される
(2)虎杖は「誰も傷つけず殺さない」という言葉に虎杖自身を含めないと解釈している
(3)宿儺は虎杖が(2)のような解釈をすると予想できている

念のため虎杖と宿儺が契約する場面(11話)を確認しましたが、宿儺の発言を正確に引用するとこうです。

ならばその一分間誰も殺さんし傷つけんと約束しよう(はーうざ)

まず、「誰も」という言葉を使う場合、何か条件がついていなければ「自分も含め例外なく全員」になるのが普通です。前後の会話を見ても「ただし○○以外」などの条件はつけていません。「虎杖悠仁は除くと虎杖悠仁が勝手に思っているから除いてもよい」となるのは極めて強引です。錯誤のある契約は無効ですよ。
虎杖が強い自己犠牲的精神の持ち主であることは今まで作中で描かれ続けてきたので、虎杖にとって自分自身が二の次である、というのはわかります。敵に「誰も傷つけない」と言われてもその中から自分を除外しそうな奴だというのもまあわかります。宿儺が(短い付き合いのくせに)それを察していたというのもまあいいでしょう。ただし、それはあくまでそういう考え方の奴止まりであって、約束をするときに「俺は除いていいから」とは一言も言ってないし、内心描写やモノローグもない。それなのに縛りの条件に適用されるのは卑怯というか、やっぱり無理やり過ぎる。
というかそれがまかり通るなら宿儺が「人間どもは虫けら以下のゴミである。ゴミをどうしようが傷つけ殺すという表現には該当しない」と内心考えながら契約すればすべて済んだ話では?だって文言に含んでない解釈も適用されるんでしょう。「一分間とは言ったが地球時間の一分とは言っていない」でもいい。そのくらい支離滅裂なことやってますよ、作中。
恣意的にそう考えるのではなく虎杖のそれは内面に深く刻まれた価値観だから適用された、という見方もあるかもしれません。呪いは感情や精神の力であるので無意識の信念が強く作用する、というのは確かにありそうな話です。それでも、「契約」とか「約束」とかいう言葉が大切な場面で言葉を蔑ろにしているようでやはり納得できません。言霊というものだってあるでしょう。

なんだろ、結局「作者がそうだと言ってるんだからそれでいいだろ」の範囲内であるような気はするんですが、こういう雑さみたいなものがどうも気に食わないんですよね。『呪術廻戦』は元々なにかと雑な作品ではあるので今更なんですけど。架空の術式の内容とかにケチつけるのは野暮だと思うんですが、今回は言葉の綾というかセリフの問題だと思うので比較的強く気になりました。すみません。
雑な展開に対抗して雑な予想をすると、呪術の契約は本人の解釈次第ということなので日車弁護士あたりに上記のような点を指摘してもらって、虎杖が「これは宿儺の契約違反だ」と自覚すれば、その瞬間から遡及して宿儺に罰が下る(罰ってなに?)とかどうですか。どうですかじゃないんだよ。