蟹3

感想と怪文書

『カメラを止めるな!!』(若干ネタバレ)

先日金曜ロードショーで放送された『カメラを止めるな!』を観た。評判通り面白かった。

仕方ないことではあるが、前半の「40分ワンカット」をテレビで実現させたせいで後半は怒涛のCMラッシュが挟み込まれてしまい、せっかくの面白さが大幅に損なわれたと思う。テレビという媒体でCMを無くすのも無理だろうから、これは劇場公開中に観に行かなかった自分が悪い。こういう映画は特に劇場の一体感みたいなものも魅力のひとつだと思われるので、その意味でも後悔が残る。テレビならSNSの実況という楽しみ方があるし監督&キャストの副音声も気になったが、それらも視聴済みのほうが楽しいだろうし、やっぱり映画館に行っておくべきだった。まあ、今更しょうがない。
テレビ放送にあたって「ゾンビは出るけどホラーじゃありません」「諦めずに最後まで観てください」と異常にしつこく念押しされていて、視聴率のためとはいえさすがに野暮すぎないか。あげくに「前半ノーカット」までバラすのは「前半部分がノーカットであることに重要な意味がある」と言っているようなもので、あまりに風情がない。これも劇場で観ておかなかったお前が悪いと言われればぐうの音もでないが。

とても面白かったが、映画のプロモーションでありがちな、いわゆる「どんでん返し」的なものを予想、期待していた場合は肩すかしを食らうだろうなと思った。実際そういう宣伝はしてなかった気がするが、あまりにも「ネタバレ厳禁」言われまくっていたせいで勝手にそういう系統だと思い込んでいた節はある。わざとらしい嘘くさいスプラッタとカメラマン本人の存在を仄めかす描写のおかげで米澤穂信の『愚者のエンドロール』的なオチかと推理してみたり。
さて、蓋を開けてみれば、そういうトリックではなくてただ単純に表と裏を順番に見せるという素直な話だった。いや、めっちゃ可笑しかったしあのシーンはこういうことだったのかっていう感心はあったけど、期待値を上げすぎたと言うか期待の方向を間違えたと言うか。散々うるさく思わせぶりなことを言われたおかげで、この一見お粗末な前半パートにどんな巧妙な仕掛けが!?と前のめりな姿勢(実際はソファーで寝ながら観たけど)だった分、余計に拍子抜けしてしまった。
あと視聴者も放送側も「前半はつまらない(けど後半で意味わかるから我慢して)」という意識は共通なのがちょっと笑った。まあ確かに酷かったけれども、どう考えてもただの無意味なお粗末映像のわけがないし、些細な違和感とか伏線を探してやろうって気にならんか?実際明らかに異様だったし、オチはともかくそういう意味では退屈ではなかったと思う。B級ゾンビ映画への耐性のせいか。
劇中で『ONE CUT OF THE DEAD』が低クオリティになってしまったのは予算とか企画の無謀さとか役者の不手際とかのせいだった。後半パートが誇張はしつつも割とリアルな感じで映画製作の雰囲気を描いているので、ああいうのって業界あるあるなのかなと思わされる。実際の邦画制作現場もあんな風に上に振り回されながらクソ映画を量産していて、そのことへの皮肉も込めてるのかとちょっと思ったけどたぶんそんなことはない。