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感想と怪文書

映画『来る』 - 霊能ババアの野外フェス

来る

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  • メディア: Prime Video

ネットで柴田理恵の怪演が光ると話題になった作品。チラ見した感想の印象では異能力バトルなのかなという感じ。
はたして、前半は意外とホラー映画してた。人間関係を描く日常のシーンが長すぎてうんざりはしたものの、そのおかげでクソ野郎の父親と振り回されて不幸になる母親のキャラが立っていたと思う。人間の闇の描き方はかなりそれっぽかった。
母親が呪いだけではなく現実に蝕まれて狂っていく演出もよかった。怪異の仕業と思われた現象の一部が実は家庭にストレスを溜めた母親のヒステリーでした、は結構面白かったと思う。ホラーだからと言って恐怖の原因が何もかも妖怪のせいである必要はない。そんな機能不全家庭で育てられたお子がまともなわけもなく、子どもの心に育つ闇がどうのこうのというテーマも拾っている。そういうのを主軸にすればジャパニーズホラーとしてそれなりの映画になったかもしれないのに。

母親も死んだあたりから後半フェーズに入り様相は一変する。あからさまに強そうな(胡散臭そうな)霊能者がいきなり謎の国家権力を行使し、謎の仲間NPCを多数召喚する。依頼人が死んでから本気を出すな。警察の偉い人が頭下げてるとこめっちゃ笑った。
招集されたいかにも強キャラ風の沖縄イタコババア4人があっけなく殺されたのもウケた。「お客さんたち、東京へは観光で?」「化け物退治じゃ、ガハハ」ってクッソ強そうな会話の直後に即死するの完全にギャグでしょ。なーにが化け物退治だよ。*1
その後なんやかんやあって最終決戦が行われるが、各方面に喧嘩を売っているとしか思えない合同ライブ、じゃなくて何らかの儀式*2は、インド映画で登場人物が全員踊り出すやつを彷彿とさせた。笑うところでいいんだよね、ここ。面白かったけどあまりにもヤケクソすぎてびっくりする。最後は命からがら戦場を脱出した岡田准一とギャルが子どもを挟んでなんかいい感じになり、最強能力者と化け物の一騎打ちの結末は描かれない。なんで??

最終的にどういう感想を抱けばいいのか迷う。なんだかんだと全部盛りした結果何がしたいのかよくわからん映画になっていると思う。一番力(リキ)の入ったシーンはコメディなので敢えてジャンル分けするならコメディでいいか。笑いどころはたくさんあったし俳優さんたちの演技もとても良かったが、何かもやっとする後味が残った。あんなそれっぽい予告編のくせにそもそもホラーであることを捨てているのがムカつく。どうせハメを外すなら、ババア連中が魑魅魍魎を蹴散らしたり霊能者連合が各々独自の能力を披露したりとか、そこまでやってほしかった。
Wikipediaによれば本作はオリジナルではなく『ぼぎわんが、来る』という原作小説があり、そちらはぼぎわんという存在を通して不定形な恐怖を描く真っ当なホラーらしい。あのふざけた合同野外フェスは原作にはないそうで(当たり前だ)かなりの改変が行われているのは明らかである。それでも何となく形だけ原作をなぞった結果、不要に見えるシーンがしばしば生まれたのではないかと思う。
振り返ってみると「何か」が不幸な夫婦の元に「来る」ことはわかるものの、それがどこからきたのか、正体は何なのか、というような「何か」そのものにまつわる話は徹底して省略されている。そんなものどうでもいいじゃん、と言わんばかり。制作陣は怪異に興味がないのかと思ったが「ぼぎわんが、」をわざわざ削ったタイトルにそれが暗示されているようである。*3
ネットの評判では主に霊能者たちをはじめキャラクターの魅力に言及するものが多く、確かにその点は同意するものの、キャラの魅力は重要ではあってもそれだけで映画にはならないと俺は思う。そういう意味でこの作品を高評価する気にはなれない。

肝心の(?)柴田理恵はと言えば、前半でちょっと出てきて電話越しに遠隔で腕を切断されるという醜態を晒し弱いじゃねーか!と思われたが、最終決戦の直前に討伐パーティー復帰。父親の霊魂を成仏させ岡田准一に意味深な(意味不明な)アドバイスを授ける活躍。
その功績が評価されたのか元々の実力か定かでないが合同ライブでは全国から集まった強豪を抑えてセンターに抜擢される。バックバンドが次々となぎ倒される中一人ステージに立ち続ける姿はさながらソロパートに突入する高坂穂乃果のよう、は少し言い過ぎか。
でも結局負けててあのライブは何だったのかという疑問だけを残し退場していった。誰だよ柴田理恵無双とか言ったやつ。鬼気迫る演技は確かに底知れぬ凄みがあったが、数あるツッコミどころのなかで最初に感想に挙がるのが柴田理恵でいいのだろうか。やはりアイドルはセンターが華、ということなのかもしれない。

*1:そのあと同業者の死を知った他の霊能者が「分かれて向かうか」「一人くらいはたどり着けるやろ」って会話するとこはプロの覚悟が見えてめっちゃ良かった

*2:劇中の説明では神様のように祭り上げることで対象をおびき寄せるとのこと。ちょっとよくわからない

*3:映画タイトルとしては『ぼぎわんが、来る』よりも『来る』のほうがホラー映画ぽいかもしれないが