蟹3

感想と怪文書

最近観た映画まとめ

6月に観た映画まとめ。全部Amazonプライム
どういうわけか久々によく観た。


ライトハウス
おすすめ度☆☆★★★ 狂気度☆☆☆☆☆
数カ月ぶりに観る映画としては尖り過ぎてて選択ミスした気がする。
絶海の孤島で灯台守を務める老人と男のめくるめく狂気の1ヶ月。時代はたぶん19世紀とか。たぶん。
期限付きで働きに来た新入りの男に対して、灯台守の偏屈な老人は厳しく、気難しく、意地が悪い。過酷な労働と閉鎖環境、過去の記憶に押しつぶされ、男は倒錯していく。白黒4:3の狭苦しい画面が圧迫感を引き立てる。これでも最近の映画。
神話のプロメテウスをモチーフにしているとかいうレビューもあるが詳しくないのでわからん。何やら男色めいたものは感じ取れる。
狂乱の果てに男が見た光はなんだったのだろう。

『ガンズアキンボ』
おすすめ度☆☆☆★★ キル数☆☆☆☆★
冴えないゲームプログラマーマイルズ(ダニエル・ラドクリフ)はネットで荒らしコメントを書き込むのが趣味。
ある日「スキズム」というデスゲームを生配信する違法サイトに書き込んだ挑発コメントが主催者を激怒させてしまう。襲撃され両手に釘で拳銃を固定されたマイルズは、そのままデスゲーム「スキズム」に強制参加することに。
荒唐無稽な感じで、リアリティや脚本の整合性みたいなものはあまり求めないほうがいい。ゲーム的な演出でドカンドカン撃ち合う様子を頭からっぽで楽しむ映画。拳銃なのにリロードなし残弾50発っておかしいだろ。
一応、非倫理的なコンテンツを娯楽消費する人々の怖さ、みたいなテーマもあるのかもしれない。戦いの中マイルズは(自分も荒らしコメントしてたくせに)カメラに向かってモラルを叫ぶが、視聴者はゲラゲラと嘲笑するばかり。一方でマイルズが決死の奮闘を見せるところでは手に汗を握り、勝利すると大喝采。無責任な群衆ここに極まれり。マイルズもかつては群衆の一人だったというのに。

『プラットフォーム』
おすすめ度☆☆☆★★ 料理の味☆☆☆☆☆
無機質な部屋が縦にどこまでも続く牢獄。全ての部屋は床の中心に空いた四角い穴で繋がっている。1日1回、豪勢な食事が上から穴を通って降りてくるが、追加はないので上層の人間が食べ残した分しかない。尽きてしまえばそれより下層の者は何もなし。月に1回ランダムで階層が入れ替わる。
この映画はおそらくメタファーであり、この施設の目的はいったい?とか考えるものではないと思う。ありえんだろこんな監獄、というツッコミは封印して観る。
上層が肥え下層が飢えるということでまず「格差社会」とか「資本主義」を連想したが、もっと大きなスケールで「世界」とか「人類」とかを表しているのかもしれない。世界(料理人)は常に高品質の資源(料理)を与えてくれるが、人はそれを偶然上に立った者で独占し、低層の人々はおこぼれを奪い合うか飢えるばかり。平等に分け合おうと誰かが説いても、上も下も自分のことばかりで全員がそれを聞き入れるには到底至らない。
ラストでは「料理人」の良心に訴えてこの理不尽で残酷な牢獄を終わらせようとするが、それもおそらく無駄だと思う。もう既に最高級の料理を提供しているのに、これ以上何を望むのかと言われるだけだ。「世界」は神のごとき誰かの意図や悪意でこのようになっているのではなく、他ならぬ人間自身がこのようになることを選んでいるのだ。

『オールド』
おすすめ度☆☆★★★ 余命☆★★★★
豪華リゾートにやってきた幸せそうな一家。支配人に案内され、秘密のプライベートビーチを訪れる。同じく招待された数組の家族とともに過ごす楽しい時間は、水死体を発見で終わりを告げる。ビーチと外をつなぐ唯一の細道では原因不明の失神が起こり誰一人ビーチから出られない。混乱の中、6歳だった男児がいつの間にか10歳程度にまで成長していることに気付く。
「いきなりやべえ速さで歳取ったら怖くね?」というワンアイデア映画。普通に歳を取ることですら(我々おっさんには)もうかなり怖くなりつつあるというのに、急速に老いていく展開は確かに怖かった。どういうわけか(理由はオチに関係)様々な疾病持ちの人が集まっており、病気がぐいぐい進行していくのも怖い。
ただ、いきなり妊娠とか錯乱して殺人とか、波乱を作ろうとしてる無理やり感も否めなかった。急速老化の原因はまあいいとして、黒幕の真相に驚きや面白みはあまりなく、オチは微妙。時間の尊さ、大切さを教えてくれる映画ではある。

スイス・アーミー・マン
おすすめ度☆☆☆☆★ 万能度☆☆☆☆☆
無人島で絶望の内に死を選ぼうとするハンクの前に、一体の死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。尻から噴き出るガスで水面を動く死体を見て、ジェットスキーのごとく死体に乗って島からの脱出を試みる。恩人(?)の死体を捨てられず話しかけたりするうちに、死体は喋り出しメニーと名乗る。一人と一体の珍道中が始まった。
腐敗ガスジェットスキーに始まり、胃袋ウォーターサーバー(死体の胃に貯まった雨水を飲料水にする)、勃起ちんぽコンパス(死体にグラビア雑誌を見せると勃起したのでちんぽの指す方向が故郷だと確信する。なんで?)、ゲップガン(死体の口に弾をつめ込んで腐敗ガスゲップで発射し獲物を仕留める)、死後硬直アックス(死体の硬直を利用した手刀で木を切る)、前歯カミソリ(死体の前歯でひげを剃る)、など馬鹿すぎる多彩な機能が楽しい。まさにスイスアーミーナイフ。
旅の道中、記憶も知識も失っているメニーにハンクは恋の素晴らしさを語って聞かせる。女性への憧れを窮地での原動力にするかのよう。女装した男と腐りかけの死体が再現する恋のトキメキ追体験は、ミュージカルのようですらある。
ところがそんな冒険も、とある場所にたどりつくことで一気に現実へ引き戻される。饒舌で陽気だったハンクが明らかなコミュ障の挙動不審。笑っていた視聴者にも、今まで見せられていたのは異常者の妄想と奇行だったのでは?と当然の疑念が(今更ながら)浮かんでくる。二人の友情と冒険は狂った幻覚だったのか?終わってみれば、社会に馴染めない人間の悲哀と虚しい余韻だけが残る。