蟹3

感想と怪文書

『DeToNatorは革命を起こさない』 - 推しチームが知りたい


プロゲーミングチーム「DeToNator」代表、江尻勝氏が10年間のチーム運営で培ったもの、今後の展望と戦略、e-Sprotsを含むゲーム業界への姿勢などを語る一冊。
こういうビジネス書の類いはハッキリ言って嫌いなんだけど、DTNは俺に生まれて初めて「贔屓のチーム」という感覚を教えてくれた愛すべきチームなので、応援の意味でお布施半分、チームについてより深く知りたいという気持ち半分で買った。結論を言うと期待していたような裏話的な話は少なかったが、推しチームがどうやら盤石に運営されているようだという信頼感はあった。江尻氏が自身の配信やメディアのインタビューで語ってきた言葉を一冊に集約したという感じで、古参ファンならほとんど既知の内容だったのかもしれない。

DTNはプロゲーミングチームであってe-Sportsチームではないという。もちろん競技シーンへの挑戦は継続しつつも、それはあくまで「ゲーム産業」の中の一分野に過ぎず、DTNはゲーム産業そのものに関わっていく、ということらしい。その証拠にDTNでもっとも知名度が高いのは選手ではなくストリーマー*1部門だ。というか俺自身がPUBG初期の頃に4BR*2配信を観てファンになったクチである。
ストリーマー部門を抱えるチームは他にもたくさんあるが、少なくともプロチーム所属としては国内ではDTNが圧倒的トップだ。視聴者数の桁が2つ違う。そしてその「数字」はお金に換えることができる。きちんと数字を分析してビジネスに昇華させて、支援で成り立つのではないチーム自体が稼げるようになることを目指す、と書かれている。
日本のゲーム界隈では弱いチーム、負けるチームへの風当たりはやたら強いように思う。海外も同じかどうかは知らん。『OVERWATCH』部門が海外で大敗を喫したことを揶揄するコメントを複数見たことがあるし、PUBGの大会配信コメント欄は下位チームを腐す発言で定期的に荒れている。そういうところで競技シーンだけに注力するのは、ビジネス的には相当のギャンブルなのだろう。だからこそ競技以外のところでチームが存続できる基盤を固めたうえで挑戦しようという姿勢は至極合理的だなと思った。

そんな感じで、徹頭徹尾経営者目線というか、ビジネスとしてチームが成り立つ(メンバーやスタッフを食わせていける)ためにはどうするべきか、ということがつらつら書いてある。数字をマーケティング分析して営業するとか、パートナー企業のリターンになるよう考えるとか、果てはプレイヤーのあいさつだとか、真っ当ではあるんだけど当たり前といえば当たり前のことしか書いていない。タイトルの「変革を起こさない」とは要するにそういう当たり前のことを積み重ねるということなのかもしれない。逆に、今までの日本のゲーミングチームはそんなことも出来ていないところが多かった、とも読み取れる。(あいさつの下りとか、よほどだらしない選手志望者を目の当たりにしたんだろうなと思わされる)
ちょいちょい日本の業界に対して苦言を呈する文章が挟まっていて、なんというか「万が一日本の競技シーンがダメになったとしても心中する気はない」という意思表明に見えた。もちろんダメになってもいいとは思っていないだろうけど、いちチームとしてできることは日本全体を変えることではないとして、そういうのはJeSUのような団体の領分なので期待する、と書いてある。(期待できるのか?)
個人的には、DTNのファンになったからこそPUBGなりApexなりの大会を観戦するようになった身なので、正直日本のe-Sportsがどうこうという話題はそんなに興味がない。競技シーンの観戦はたしかにストリーマーの配信とは全く違う魅力があるので、盛り上がってほしいとは思う。とはいえDeToNatorというチームが業界の興亡や流行に飲まれず末永く活動できるのであればそれはとても嬉しい。本書はその希望を見せてくれる。

*1:大会出場ではなくゲームプレイの生配信を通してファンの獲得やゲーム普及を目指す人

*2:ストリーマー部門の主力4人がチームを組んで一緒に何らかのゲームをやること。語源は