蟹3

感想と怪文書

漫画『ひとりでしにたい』


漫画アプリで無料だったので何となく読んだ。非常に鋭かった。

主人公は山口鳴海35歳。某所美術館の学芸員、未婚彼氏なし、男性アイドルオタク、無自覚な無神経、無知、声がデカい、実家は太め、結婚願望なし、数年前にマンションを購入し猫と二人暮らし、ダメだしを受け止める素直な一面も。
幼い頃憧れていたバリキャリ伯母が定年後疎遠なうちに風呂場でドロドロの液体になって孤独死するという事件をきっかけに、自身の人生を直視するようになり、いわゆる終活、どう死ぬかを考えていく。
終活といっても自分が死ぬことだけではなく、親の熟年離婚、介護、葬式、結婚、資産運用、保険、老後、その他諸々、「死ぬまでにどう生きるか」といういわばライフステージ全般がテーマ。どう死ぬかを考えることはどう生きるかを考えることでもある。しにたいという不穏なタイトルではあるが、それは「良く生きて良く死ぬ」という死に様のことである。
そこで登場するのが職場の後輩、那須田優弥君24歳。官庁から美術館に出向中公務員、独身彼女なし、一人暮らし、一流大卒、清潔、物知り、現代のドライな若者、モラハラ正論パンチ、孤独死に並々ならぬ関心あり、生い立ちに何らかの闇を抱える、山口さんが(いろいろな意味で)気になる。

伯母の死から色々と考え始める山口さんは元々結婚願望がなかったにもかかわらず、婚活で男をゲットという安易な発想に走る。デカい声で喋っていたので全て聞こえていたナスダ君がいきなり現れ、バチクソ論破されてしまう。それ以降、いちいち正論で殴ってくるナスダ君にムカつきつつ、持ち前の素直さでそれらを吸収し助けられながら、今まで考えもしなかった現実問題に立ち向かっていく。
厚生労働省日本年金機構のPR漫画かと思うほど社会的なテーマが扱われているが、山口さんの変顔とキレのあるギャグ(本人は真面目)によりコミカルで面白く読める。と同時に、読者である自分も他人事ではない現実の諸問題が解像度高く描かれており、よくある「漠然とした不安」とは正反対の「具体的な不安」が重くのしかかってくる。読む際は心の状態に注意してほしい。

ナスダ君がわざわざ一回り年上の自己中で声がデカいドルオタ中年女性に絡みに行く理由は、読者目線では明らかに淡い恋愛感情なのだが、そういうのにドライなナスダ君は半ば自覚しつつも複雑な心境。闇の生い立ちゆえ適切なコミュニケーション方法を知らずモラハラをしてしまうので、山口さんには一切伝わっていないどころか普通にドン引きされる。
一方山口さんは、表情がコロコロ変わり推し活で毎日楽しそうにしていたりなんだかんだ素直だったり、ナスダ君が気になるのもまあわからんでもない魅力のある人に見える。見た目も悪くなさそうだがそれは漫画だからか。にもかかわらず親から(結婚的な意味で)オワコン扱いされる程度には欠点も多い。保険会社勤務の元カレに保険の見直しを相談しに行き、かつて自分が舐め腐っていたことへのカウンターを手痛く食らうエピソードが面白かった。
そんな凸凹な二人が生き辛い人生を考えるにあたって、安易に男女でくっついて助け合いパートナー、という結論にならないのが良い。かといって結婚そのものを否定しているわけでもない。日本では家族という絆がシステム上非常に有利なのも事実ではあるのだ。
連載最新話では絶縁秒読みの論破バトル(?)が繰り広げられているが、二人の今後やいかに。

自分の人生をどうするかという課題で婚活に走る主人公の姿が少し前の自分に重なり、嫌な汗が出た。俺も結婚が向いている人間ではないし、将来孤独死の可能性が高いのは間違いない。ひとりでしぬために様々な困難は避けられず、早いうちから自分で考えて準備しなければいけない。身につまされた。
30代半ばまでヘラヘラしていて何も準備していない辺りは山口さんが重なるが、ナスダ君は生活に楽しみがなく、他人との付き合いを持たない(持てない)ところが自分に近い。二人の良くないところを併せ持った悍ましいモンスターが俺だ。最悪。
なんで面白い漫画読んでこんな気分にならなきゃいけないんだよクソ。

Splatoon3初期感想


発売してから約半月、2をはるかに凌ぐ勢いで人が増えているSplatoon3。2をやってなかった有名配信者なども続々と沼に沈んでいる様子が見られる。
発売初日に買った勢の中ではプレイ時間は短いほうだと思うが、いちおうウデマエAまで上げてヒーローモードのエンディングはみた。ナワバリをあまりやってなくてお金がない。ギアパワーもない。デュアルスイーパーがなんかいい感じ。前作で全然使ってなかったのに。
ざっと触った感じ前作から変わったところを見ていく。

新ブキ

新しく追加されたブキは2系統4種。今後アプデで増えるだろうが正直少ないと思う。この手のゲームでは新キャラとか新武器が売りになることが多いのに。
実戦ではあまり使ってないがどれも癖があって雑に使うと大戦犯かますタイプのやつだと思った。初心者には向いてない。ドライブワイパーかっこよくて使いたかったのに負けまくった。

新サブスぺ

サブはラインマーカーが追加、スペシャルはなんと10種追加。リストラされたやつも何個かある。強いのと弱いのでかなり差があって今後の調整に期待。ナイスダマが強すぎ。有利状況では強いけど押し込まれた不利状況では苦しいものが多い印象。(ナイスダマはそうでもないので余計強い)カニタンクはかわいい。

バンカラマッチ(ガチマッチ)

ガチホコに関門が追加されて30秒でノックアウトは少し難しくなった。ガチアサリがアサリ8個分になった。(ネット情報、アサリやってないので未確認)エリアヤグラはたぶん変わってない。ウデマエが全ルール共通になったのはプレイ時間足りない社会人的には嬉しい。
新マップが全体的にクソ。縦に長くて真正面の撃ち合いが多い、裏取りルートが少ない、狭い、で不利になってからの逆転が難しいと思った。射程と対面戦闘力で負けてるときに勝ち筋が見えない。撃ち合いが多いのは良くも悪くも楽しいとは思う。
表彰のおかげで初心者でも負けた時のストレスが緩和される、という話をネットでいくつか見たが、今のところ表彰があろうがなかろうが負けたら普通にムカつく。もうとっくに初心者ではなかった。

ウデマエシステム

SNSで賛否両論。降格がなくなり、勝率5割キープで確実にポイントが増えるのでかなり上げやすい。5割以下でも上がるっぽい。前作C帯の人がS+到達したとかいう話もある。あまりにも負けまくると所持ポイントがマイナスに突入するらしいのでこれが実質降格みたいなもんか。普通に降格するよりつらくない?
批判点としては、実力とウデマエがリンクしなくなる、やりがいがない、下手な人が昇格してしまい上手い人と混ざる、上位ウデマエの希少価値が下がる、など。主に前作上級者が言ってる。
良いところは、ライトユーザーや低ウデマエ層の人もウデマエが上がる喜びを味わえること、ウデマエが下がるストレスがないこと。
最初は、前作でS+を目標にしてた身としてはなんだか虚しい気持ちになったが、「これはいわゆるランクマッチではない」と思えばまあいいかと納得できた。今後Xマッチが別枠で実装されるので目標とか実力とか目を三角にするような話はそっちでやってねというデザインだと思う。今作CからS+はカジュアルマッチか練習場であり、Xマッチ内のXパワーの大小が前作のC~Xに当たると考えるべきだろう。Xマッチに参加できない人はまだその段階ではない、ということ。そういう説明が全くないので想像でしかないがたぶんあってると思う。説明しろ。
わざわざ「ガチマッチ」の名称をやめて「バンカラマッチ」に変えたあたりもそういう住み分けの意図があるのかもしれない。前作でカジュアルマッチに相当するものがナワバリルールしかなかった点の改善でもある。やっぱりちゃんと説明しようよ。

総合

細かな改善や修正で遊びやすくなったものの大枠は2とあまり変わらない印象。2の時点で神ゲーだった要素をそのまま引き継いでいるので変わらず神ゲーではある。3独自の良いところが特にないような気はする。カード?ロッカー?うーん、マッチング中の射撃練習かな。ダメなところはラグが酷い。マップうんち。バグ多い。バグはローンチ直後だからしゃーなしか。ラグはなんとかしてほしい。明らかに前作より悪化した。
身もふたもないが実際一番の良いところは初動売上345万本というユーザー爆増。オンラインゲームは人口が命。有名だけど対人戦はちょっとな~という人たちを話題性の波に乗って取り込みまくることができた。バンカラマッチの仕様変更もライトユーザーのすそ野を広げたいがためと考えれば妥当。敗戦にブチギレてプロコンを壊す大きなお友達だけのゲームじゃないんだよ、という天の声が聞こえる。

夏休みの日記

最近身の回りで転職ブームが来ている。
身の回りというのは要するにツイッターのフォロワーなんだけど今年に入ってもう4人か5人くらい転職もしくは転職見込み状態を見たと思う。乗るしかないこのなんとかに。やっぱりそう、価値観の多様化に伴って雇用の流動性をもっと上げて各々働きやすいポジションを見つけないとね。職場のマッチアップなんて働いてみないとわからないんだからどんどん転職しようね。転職歴が数個あるだけで難色を示すような、一回入社した人には数十年働いてもらうのが当たり前みたいなそういうのは時代遅れなんだよね。
と言いながらとくに準備とかは何もしてない。次の人が採用決まれば退職時期も決まるので、そして引継ぎに最低1か月下手したら3か月くらいはかかると思うので、実際の転職活動はその間にすればいいと思っている。なんでこんなに引継ぎが長いのかというと、年1回しかやらないとか数か月に1回しかやらないみたいな業務が多すぎるので短期では引継ぎもクソもないから。まあ3か月かけたとしても12分の3しかフォローできてないんだけど何もせんよりはマシだろう。そこまでしてやる義理もないかもしれないけどなるべく穏便に騒ぎ立てず辞めたいので。辞める理由大嘘吐いてる時点でどの口がって感じなんだけど。
事務職なんてすぐ採用決まるだろと思ってたけどこの3か月?くらいで2人しか面接来ないしどっちも一次面接で即不採用だしワロタ。9月に採用決まればキリよく年内で辞めれるしまだあわわわわわわ。
そういうわけでお盆休みも何もせず家から出ずゲームしかしてないけど、本当にこんなんで大丈夫なのかとか、どうせ次の職場も不満たらたらなんだろうなとか、今まで何回も咀嚼した不安から目をそらし続けている。夏休みの宿題を8月31日にやるタイプ、ではなくてなんだかんだ言いながら夏休みの宿題を終わらせないまま卒業したタイプ。

ゲームと言えば連休は久々にオートチェスをやった。またいろいろ仕様変更されてたりちょうど新しくデッキシステムが追加されてたり、相変わらずやるたびに浦島太郎状態になるんだけど、ビショップ帯(APEXでいうとゴールド帯)程度なら昔の手癖と勘で十分上位維持できるっぽかった。オートチェスに限らず、勝てるゲームは本当に楽しい。甘めに見てせいぜい中級者レベルでしかないけれど、それでも自分の積み上げた経験や力を発揮して結果を残せるというのはどんなものでも達成感と自己肯定感を高めてくれるんだと実感した。これがゲームでなくて社会やビジネスでできるなら、そりゃあ人生前向きになれるよな、と思った。そういう経験がないのも働くのが嫌いな理由の一つなのだろう。もちろん、働くのが嫌いだからそういう経験ができないとも言える。社会が向いていない。
でも死にたくはないからどうにかしないといけないんだよね。嫌だな。(いつもの結論)
転職は「どうにか」の大きな一手になる、はずなんだけど、失敗することも考えられるし、そもそもどうなったら成功なのかよくわかっていないし、こんなんではだめだよなと思ってはいる。思うだけ。最近、他人と話をするのも悪くないなと思うことが度々あり、そういえば別に誰か(誰でもいいわけではない)と一緒にいるのが嫌いなわけではないんだよなと思いだした。それなら別方向の「どうにか」手段である結婚とかも再度まじめに考えてもいいんじゃないかと思ったりもした。思うだけ。

あの日読んだホビー漫画の名前を僕達はまだ知らない

過去ブログの再掲記事です。

大人になると子どもに戻りたいと思う瞬間が多々ある。あるいはそういう感傷から卒業した時こそ真の大人になるのかもしれないが、とにかく俺は今もしばしばある。そんなあの頃、俺達が熱狂した漫画のひとつ『爆球連発!!スーパービーダマン』をご紹介しよう。何故今頃?アマゾンでセールだから。

爆球連発!!スーパービーダマン』は1995~2001年にかけて月間コロコロコミックで連載された漫画だ。こういったホビー玩具漫画は有名な『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』を始めとしてコロコロ史上たくさんある。ビーダマンはその中でも特に印象深い。我が家では月刊誌であるコロコロコミックを年に2,3冊しか買ってもらえず、その分1冊を擦り切れるまで繰り返し読んだために、その号に掲載された回がむしろ強烈に印象に残ったのだろう。(悲しいエピソード)

4つの長編があるが、共通する魅力の一つが、ライバルとの和解と共闘というドラマだ。
メインキャラクターのひとりサラーは、初登場時は資金力にものを言わせて勝利の快楽だけを求めるというありがちな嫌な奴。しかしタマゴとの全力の戦いの中で本来の勝負の楽しさを思い出し、仲間になる。そのサラーが歪んでしまった原因は転校前の学校での不幸なすれ違いにあったのだが、それは「全日本ビーダー選手権編(地区予選)」のラスボス戦への伏線でもある。この、すれ違いからの憎悪→和解という構図は「TOPビーダー選手権(全国大会)」でのガンマ・ガンモの師弟対決にも見られる。大会で対戦する多くの強敵たちは戦いの中で実力を認め合い、ビリーのように主要メンバー入りしたり、特訓の手助けをしたり、応援したりするようになる。かつて戦った友から受け継いだ機体、とかもめちゃくちゃ燃える。物語の展開的にも「昨日の敵は今日の友」パターンは胸が熱くなるもだが、こうした姿を見て読者の子どもたち(そして俺)は、本気で戦うことと友情は両立しうると知るのだ。俺もPVPゲームをやってて負けたときに激情に駆られそうになるのでよくわかるが、「勝ちたい」「負けて悔しい」という感情はどうしても人を攻撃的にしてしまいがちだ。小学生ならそこから喧嘩になることも多いだろう。そういうときグッと堪えて、お互いに気持ち良く健闘を称え合えば、仲直りできたり仲間が増えて結果的に大きなプラスになるよ、ということが全編を通して描かれている。

全国大会編までに登場する主要なビーダー達は、初登場時は非情だったサラーや円、伊集院を含め、心根の優しいスポーツマンシップを守る善良な子どもたちである。しかし、残念ながらルールを破る人間はどこにでも必ずいる。それが最終章「ダークマター編」に登場するはぐれビーダー集団ダークマターだ。彼らは大人のビーダマン普及団体(?)JBA内部の権力争いに付け込み、ビーダマン界(?)の実権を握ろうとしている。戦いの中で津印やマダラがいかにしてダークマターとなってしまったのかが描かれているが、それもまあ簡単に言ってしまえば子どもらしい感情が発端の不幸な物語。最終的には、彼らもまたタマゴ達との戦いを通してビー魂を取り戻していくのだが、ここから我々はルール違反者への対応を学ぶことができる。序盤のサラー編から一貫して、正しい行い(ルールの中で全力で遊ぶ)が最も楽しく面白いことであり、それを実践で示していくことで気付いてもらうわけだ。子どもたちは間違いを犯してもそれに気づけば矯正することができる。登場人物の中で最後まで改心せず悪役として消えていったのが大人のDr.迫ただ一人というのがなんだか示唆的ではないだろうか。

ところで、こういうホビー漫画は娯楽であると同時に、販促を兼ねている面もあると思われる。俺はビーダマンはやらなかったが、ミニ四駆ベイブレードは買ってもらった。当たり前だがビーダマンにしろミニ四駆にしろ、漫画みたいな派手な芸当は全然できない。買ってもらった玩具と漫画を比べて、最初は落胆するかもしれない。しかし、それでも実物が目の前にあるというのはやっぱり嬉しいものだし、遊んでみるとそれはそれですごく楽しい。一緒に遊ぶ友達がいればなおさら。そうして子どもたちは、フィクションの面白さと現実の面白さが全く別でありこと、どちらも違った魅力があることを、自然に学んでいく。それはフィクションと現実を混同しないという重要な精神性の獲得につながる。大人になってもその区別がつかない人は、同級生がゴーーッ!シューート!!やってる輪に入らず孤高ぶってた陰キャか、親が厳格もしくは貧乏で玩具を一切買ってもらえなかった不幸な子かのいずれかだと言えよう(暴論)。

いかに学ぶべき部分が多いかという論調になってしまったが、対象読者が価値観の柔軟な子どもたちであることを考えると、もしや狙ってそのように描いたのではとも思えてくる。裏返せば、人格形成に多大な影響を与えかねないからこそ、下手な話にはできなかったとも言える。では我々成人はお呼びでないかと言えばそんなことはなく、十分に我が身を省みるキッカケにできるだろう。なぜなら、あの分厚い雑誌に夢中になっていた日々を懐かしく思う気持ちがある限り、我々はまだ大人ではないので。
まあ、そういう堅苦しいことを抜きにしても、漫画としてそもそもめちゃくちゃ面白いので、よかったら読んでみてほしい。対象年齢のためか、極端なシリアス展開が一切なくストレスなく読めるのもよい。少年漫画が備えているべきあらゆる要素が完璧に詰まっていて、あなたのビー魂に火が付くこと請け合いだ。

最近観た映画まとめ

6月に観た映画まとめ。全部Amazonプライム
どういうわけか久々によく観た。


ライトハウス
おすすめ度☆☆★★★ 狂気度☆☆☆☆☆
数カ月ぶりに観る映画としては尖り過ぎてて選択ミスした気がする。
絶海の孤島で灯台守を務める老人と男のめくるめく狂気の1ヶ月。時代はたぶん19世紀とか。たぶん。
期限付きで働きに来た新入りの男に対して、灯台守の偏屈な老人は厳しく、気難しく、意地が悪い。過酷な労働と閉鎖環境、過去の記憶に押しつぶされ、男は倒錯していく。白黒4:3の狭苦しい画面が圧迫感を引き立てる。これでも最近の映画。
神話のプロメテウスをモチーフにしているとかいうレビューもあるが詳しくないのでわからん。何やら男色めいたものは感じ取れる。
狂乱の果てに男が見た光はなんだったのだろう。

『ガンズアキンボ』
おすすめ度☆☆☆★★ キル数☆☆☆☆★
冴えないゲームプログラマーマイルズ(ダニエル・ラドクリフ)はネットで荒らしコメントを書き込むのが趣味。
ある日「スキズム」というデスゲームを生配信する違法サイトに書き込んだ挑発コメントが主催者を激怒させてしまう。襲撃され両手に釘で拳銃を固定されたマイルズは、そのままデスゲーム「スキズム」に強制参加することに。
荒唐無稽な感じで、リアリティや脚本の整合性みたいなものはあまり求めないほうがいい。ゲーム的な演出でドカンドカン撃ち合う様子を頭からっぽで楽しむ映画。拳銃なのにリロードなし残弾50発っておかしいだろ。
一応、非倫理的なコンテンツを娯楽消費する人々の怖さ、みたいなテーマもあるのかもしれない。戦いの中マイルズは(自分も荒らしコメントしてたくせに)カメラに向かってモラルを叫ぶが、視聴者はゲラゲラと嘲笑するばかり。一方でマイルズが決死の奮闘を見せるところでは手に汗を握り、勝利すると大喝采。無責任な群衆ここに極まれり。マイルズもかつては群衆の一人だったというのに。

『プラットフォーム』
おすすめ度☆☆☆★★ 料理の味☆☆☆☆☆
無機質な部屋が縦にどこまでも続く牢獄。全ての部屋は床の中心に空いた四角い穴で繋がっている。1日1回、豪勢な食事が上から穴を通って降りてくるが、追加はないので上層の人間が食べ残した分しかない。尽きてしまえばそれより下層の者は何もなし。月に1回ランダムで階層が入れ替わる。
この映画はおそらくメタファーであり、この施設の目的はいったい?とか考えるものではないと思う。ありえんだろこんな監獄、というツッコミは封印して観る。
上層が肥え下層が飢えるということでまず「格差社会」とか「資本主義」を連想したが、もっと大きなスケールで「世界」とか「人類」とかを表しているのかもしれない。世界(料理人)は常に高品質の資源(料理)を与えてくれるが、人はそれを偶然上に立った者で独占し、低層の人々はおこぼれを奪い合うか飢えるばかり。平等に分け合おうと誰かが説いても、上も下も自分のことばかりで全員がそれを聞き入れるには到底至らない。
ラストでは「料理人」の良心に訴えてこの理不尽で残酷な牢獄を終わらせようとするが、それもおそらく無駄だと思う。もう既に最高級の料理を提供しているのに、これ以上何を望むのかと言われるだけだ。「世界」は神のごとき誰かの意図や悪意でこのようになっているのではなく、他ならぬ人間自身がこのようになることを選んでいるのだ。

『オールド』
おすすめ度☆☆★★★ 余命☆★★★★
豪華リゾートにやってきた幸せそうな一家。支配人に案内され、秘密のプライベートビーチを訪れる。同じく招待された数組の家族とともに過ごす楽しい時間は、水死体を発見で終わりを告げる。ビーチと外をつなぐ唯一の細道では原因不明の失神が起こり誰一人ビーチから出られない。混乱の中、6歳だった男児がいつの間にか10歳程度にまで成長していることに気付く。
「いきなりやべえ速さで歳取ったら怖くね?」というワンアイデア映画。普通に歳を取ることですら(我々おっさんには)もうかなり怖くなりつつあるというのに、急速に老いていく展開は確かに怖かった。どういうわけか(理由はオチに関係)様々な疾病持ちの人が集まっており、病気がぐいぐい進行していくのも怖い。
ただ、いきなり妊娠とか錯乱して殺人とか、波乱を作ろうとしてる無理やり感も否めなかった。急速老化の原因はまあいいとして、黒幕の真相に驚きや面白みはあまりなく、オチは微妙。時間の尊さ、大切さを教えてくれる映画ではある。

スイス・アーミー・マン
おすすめ度☆☆☆☆★ 万能度☆☆☆☆☆
無人島で絶望の内に死を選ぼうとするハンクの前に、一体の死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。尻から噴き出るガスで水面を動く死体を見て、ジェットスキーのごとく死体に乗って島からの脱出を試みる。恩人(?)の死体を捨てられず話しかけたりするうちに、死体は喋り出しメニーと名乗る。一人と一体の珍道中が始まった。
腐敗ガスジェットスキーに始まり、胃袋ウォーターサーバー(死体の胃に貯まった雨水を飲料水にする)、勃起ちんぽコンパス(死体にグラビア雑誌を見せると勃起したのでちんぽの指す方向が故郷だと確信する。なんで?)、ゲップガン(死体の口に弾をつめ込んで腐敗ガスゲップで発射し獲物を仕留める)、死後硬直アックス(死体の硬直を利用した手刀で木を切る)、前歯カミソリ(死体の前歯でひげを剃る)、など馬鹿すぎる多彩な機能が楽しい。まさにスイスアーミーナイフ。
旅の道中、記憶も知識も失っているメニーにハンクは恋の素晴らしさを語って聞かせる。女性への憧れを窮地での原動力にするかのよう。女装した男と腐りかけの死体が再現する恋のトキメキ追体験は、ミュージカルのようですらある。
ところがそんな冒険も、とある場所にたどりつくことで一気に現実へ引き戻される。饒舌で陽気だったハンクが明らかなコミュ障の挙動不審。笑っていた視聴者にも、今まで見せられていたのは異常者の妄想と奇行だったのでは?と当然の疑念が(今更ながら)浮かんでくる。二人の友情と冒険は狂った幻覚だったのか?終わってみれば、社会に馴染めない人間の悲哀と虚しい余韻だけが残る。

正反対な感傷マゾと僕


こちら、ジャンプ+で最近人気の漫画なんだけど、高校生の恋愛モノに抵抗がなければぜひ読んでみてほしい。細やかな心理描写の解像度、嫌味のない魅力的なキャラクター、コミカルかつさわやかなトキメキの演出など、おすすめできる漫画だ。恋愛系をあまり読まない人間におすすめされてもアテにならないかもしれないけれど。

実は、俺にもこの漫画みたいな経験がある。というのはちょっと盛ったけれど、似たシチュエーションがあった。高校時代の俺は(良く言えば)「物静かな眼鏡男子」だったし、あの頃少しだけ付き合っていた子は「性別問わず友達が多い陽キャグループの中心的女子」だった。帰り道が途中まで一緒で、陽キャグループの子たちは良い奴らだった。当時陽キャなんて言葉はこの世に存在していなかった。いつの時代だよ。
あくまで要素要素が部分的に似ているかも、という程度で、漫画みたいなドラマチックなことはなかったし恋人っぽいこともそんなにしてない。俺は谷君ほど整った顔じゃないし、あの子はギャル系でもない。大して似てなくても恋愛系のエピソード引き出しがひとつしかないので連想せざるを得ない。切ない。
とはいえ、恋愛要素を抜きにしてあの頃は恵まれていて幸せだったと思う。こうして漫画のキャラに当時の自分を重ねられる程度には。


なので、漫画の谷君が十数年後、気力もやる気も友人も失い金もスキルもなく漫然とした不満を抱えながらダラダラと生きているだけのおっさんになったところを想像する。
俺の人生はそうなってしまったんだよね。


話は変わって、「感傷マゾ」という概念がある。あるらしい。最近知ったのでよくわかってないがざっと調べたところ、
『アニメみたいな青春をコンテンツから大量に摂取する一方、現実の青春には何もなかったという惨めさや自己嫌悪を抱き、そのうち自己嫌悪自体が気持ちよくなってしまいコンテンツから得られる感傷と自己嫌悪のループを求め続ける性癖』
ということらしい。めんどくさい拗らせオタクか?
ここ最近はコロナで強制的に青春が奪われてしまうこともあり、感傷マゾ的なものを抱える人も増えているという。まあ言いたいことはわかる。より詳しく知りたい人は下記を参照。
note.com


俺自身は、後悔は諸々あれど自分の送った青春にそこそこ満足している。平均的青春、というには性的経験が少なすぎる気がするが、俺ごときには過ぎた日々だったと思う。したがって、ここで言う「何もなかった青春をルーツとした感傷マゾ」という感覚はたぶん持っていない。
しかし、さっきやったように青春コンテンツを摂取して「あー、俺もいつかはこんなふうだったかもな、それにひきかえ今は…」という感傷に浸り、そこにマゾ的快楽を感じることはある。

惨めさや自己嫌悪を快感にするのは同じだけれど、感傷マゾが何もなかった過去を出発点としているのに対して、俺は何もない現在から逆方向にベクトルを向けている。逆感傷マゾ?とでもいうか、この性癖(?)には何か名前はあるんだろうか。そもそも同じような感覚を抱いている人をまだ見たことがない。そこらにいるとは思うけど、どうやって探すのかわからんから当たり前か。
感傷マゾに該当するかどうかはともかく、自身の青春に満足していない人が青春コンテンツで代替してなにがしかのエモさを得る、というのは特に珍しくもないことだと思われる。
一方で、若い頃にちゃんと青春を謳歌した人は概ねまともな大人になっている可能性が比較的高く、俺のような不健全な境地に至る人はそこまで多くないのかもしれない。
たとえばもし、感傷マゾという概念の中に「あの頃こんな経験(青春コンテンツ)をしていれば自分は救われたのに」という要素があったとしたら、俺はその反証なのだろうか。それを語れるほど感傷マゾにも青春コンテンツにも詳しくはないのだけど。

結婚相談所体験記

2021年中のいつかの話。
数年前に一度資料請求をしてそのままになっていた某結婚相談所的なところから、無料体験入会の案内がきた。無視しようかと思ったが、せっかく無料(登録料と会費が無料でマッチング料のようなものは別途)なので体験入会してみることにした。
「若い頃は一人身で満足していても歳を取ってから後悔する人」という話をしばしば見聞きする。今は自分がそうなるとは思えないが、先のことはわからない。10年前の自分に今の自分が想像できていたかといえば、全くできていなかったように。
そこで、今のうちに結婚に向けて何かしら行動したという実績があれば、後悔せずに済むのではないか。したとしても己を納得させることはできるのではないか。そういった考えである。もちろん、運命の人に出会える可能性がないわけではないし。
結論から書くと、当然運命の人などには出会えなかった。というか期間中1人しか会っていない。その程度なので大した内容ではないが、今後同じような経験はもうないと思うので一応顛末を書き残す。

ここの相談所では職員が仲介して女性に男性を紹介するという形でマッチングが行われる。会員自身でアプローチができないため自由度は低いが、個人情報は守れるし受け身の人でも安心。とのこと。
体験とはいえやることは本入会と同じなので早速面談しながらプロフィールを書く。「主夫希望」などと言える雰囲気ではなかった。薄めて「年収が弱いので経済的に自立している人を希望、その他の条件は概ね応相談」くらいにしておく。経済力を求める以上年齢は上になる可能性が高いとのお言葉を頂く。身長や体重なども希望できたが、とりあえず普通とだけ書いた。
女性の好みと言われてもうまく答えられない。ショートカットが好きとか貧乳が好きとかそういうのはイデア的な話であって(?)、現実の女性についてどうこうという気持ちはあまりない。もちろん容姿が良いに越したことはないが、結婚するなら中身の方がより重要だし、他人の容姿にとやかく言える顔面でもないし。
じゃあどんな中身ならいいのかとなるが、やはりふわふわしたことしか言えない。今までの(乏しい)経験上、親しかった(付き合ったとは言ってない)異性の性格やタイプは色々で、結局タイミングや知り合うきっかけや運次第のような気がする。

自身のプロフィールでは、やはり学歴に注目が集まる(?)。収入なき学歴など力なき正義と同じく無意味なのに…と思った。他に大した特徴がないとも言える。記入欄のない出身高校まで余白に書かされた。田舎では下手な大学よりも地元の名門高校のほうが印象が良いと噂に聞くが、あながち嘘でもないのかもしれない。
趣味欄に映画漫画ゲーム読書と書いたら「ゲームは今時みなさんスマホで何かしら触られてますから特段書かなくていい」などという建前でやんわり消された。すみません。
ちょうどこの頃、絵でも描こうかと思って安い画材や鉛筆を買ったばかりだったので、実態はほぼゼロなのに「風景画(最近始めた)」ということも書いてみたところ、思った通りウケが良かった。その後何度か描いてみようとしたのでまるきり嘘でもないということにしたい。結局すぐ触らなくなってしまったが。
婿養子可にマルをつけたらここも食いついてきて、意外と希望者がいるのだという。改姓に抵抗感がないという意味で書いただけなんだけど、なんとか家の跡を継ぎ先祖代々のナニナニを~みたいな話が来たらどうしようかと思った。(来なかった)
写真はどうするのかと思ったら事務所の応接スペースでおばちゃんが普通のデジカメで撮った。元々大したツラではない上に仕事帰りで心の準備もなかったのでまあまあ酷い写りだった。

アドバイザーのおばちゃんはいかにも世話好き話好きで、世が世なら近場の若い男女を軒並みくっつけてしまおうかという風格があった。苦手なタイプ。こういう所では重要な人材なのだろう。
出来上がった身上書は改めて自分で読み返しても魅力を感じないなあとつくづく思ったが、結果的に体験期間中に2件の面会希望があった。結局1件は日程が合わずキャンセルになったがとりあえず1件会ってみることになる。


最初の面会は相談所内の応接室で小一時間ご歓談という決まり。こういう機会は初めてゆえ緊張若干しつつ、そもそも期待値がないのでどこか気楽な態度で向かう。
相手は年上30代半ばの方。プロフィールの詳細は伏せるが俺の書いた紙捨てた?というくらい希望条件と合致はしていない。条件と言っても収入くらいしか指定してないが。
外見も人柄も本当にごく普通の人という印象。良く言えば優しそう。悪く言えば地味。俺もそういう感じに言われると思うのでお似合いといえばお似合いだったのかもしれない。
ともかく、コミュ障っぽいとか性格に難ありとか身だしなみが悪いとか、第一印象でわかる範囲そういうマイナスな感じはなかった。
互いの身上書の情報を頼りに趣味の話や仕事の話をした。趣味は合わなそう。風景画の下りはやはりウケが良いが半分(9割)嘘なので巧妙に避けた。食べ物の好き嫌いで少し盛り上がった。好き嫌いはその人のパーソナリティやエピソードが出がちなため話を広げやすい気がする。
意気投合とは言えないが、時折笑いも交えてスムーズに進んだと思う。いくら俺が根暗だとはいえ、やろうと思えばこの程度のコミュニケーションはできる。しんどいのでしたくはない。
内心どう思っていたかはわからないが、アドバイザー経由で先方は次回(ランチ)も希望とのこと。もう一度会いたいと思うほどでもなかったが、さりとて会いたくないと思うほど悪い印象もなく、せっかくの機会なので承諾した。

2回目の面会前に体験期間終了後継続課金するか否かの選択を迫られる。対応などには特に不満はなかったが、紹介件数が2か月で2件と少ない(俺自身が不良物件なだけ)し、たった1人と会って話しただけの活動で既にめんどくささが圧勝していたので、本契約はしないことにした。
退会が決まった状態で会うのも悪い気がしたが、退会が決まっていても退会日までは面会自体は可能だそう。もし交際が決まれば退会はするけど既定のマッチング成功料金を支払うのだと思われる。
異性と二人で食事など10年振りなので店選びから厳しいものがあると思われたが、かつて友人と行っておいしかった店がLINE履歴に残っていたので助かった。どうせ次はないし、気取らず食べたいものを食べることにした。

2回目は相談所で待ち合わせ、俺の車でお店へ。交際が決まるまではお互いの連絡先や住所は教えてもらえない。ストーカー化対策だろうか。
初対面の時も思ったが、趣味方面は全く合わない。合わないなりに、両者知らないことを知る機会として和やかに話せた。とは思う。その他仕事の愚痴を交わしたり、友人の話をしたり、前回同様悪くはない感じだった。店は味を重視しすぎてデートの雰囲気が薄く失敗したかと思ったが、デートがしたかったわけではないので良しとする。相手氏は何度か来たことがあるとのこと。敗北。
帰り道で若干道を間違え、年下の可愛いところ的なアピール(?)をしてしまった気がするが、意外とウケが良かった。
結局、悪い人ではなかったが交際か結婚かという程でもなく、申し訳ないが相談所経由で丁重にお断りさせて頂いた。向こうもお断りだったのかどうかは伝え聞いていない。

こうして俺の結婚相談所体験は終わった。知らない人と喋って飯食っただけなので本当に大したことはしてない。体験のため入会金は0円、マッチング費として1件8,000円の出費。もっと手軽にマッチングアプリでよかった気がするが、プロフ画像にできる自撮りを一切持ってないので登録しづらい。
プライベートで女性と会って話すのはかなり久しぶりだったが、気まずい空気は(たぶん)なかったし、女性経験に乏しい男性にありがちな会話に困るとか噛み合わないとかそういう感じも(たぶん)なかった。
性別関係なく、人に会うこと自体が億劫という感覚は拭えなかったのでやっぱりダメかも。かつては男女問わずフォロワーとオフ会とか言ってホイホイどこでも行ってた気がするが何が違うのだろう。若さか、心理的な親しさか、うつ病の有無か。

振り返ってみると、終始お試し気分が抜けなかった。というか実際お試し入会なので間違ってはいないが。まずは形からと思ったが、どこか他人事だった気がする。相手の方ごめんなさい。
本気で結婚したいという意思があればまた違った結果もあったかもしれない。結局「自分を救うのは自分自身」「他人を変えるより自分を変えろ」などと同じく、自らの内に意欲や願いがなければ何事もうまくいかない。無欲の勝利なんていうのは偶然の産物なのだろう。
異常独身男性(女性)諸氏の参考になればと思い書いてみたが、長いわりに中身がなさ過ぎて何の参考にもならん。結婚したいという気持ちがまず大事なんだ、と言いたいところだが、願望たっぷりでも結婚できず悩んでいる人もたくさんいるので気持ちだけの問題でもないらしい。難しい。